……多分、時間を確認したときにはもうそろそろ陽の家に向かわなければならない時間であることに焦ったんだろう。

でも、顔を上げた彼女はどこか晴れやかな顔をしていた。

いいアイディアでも思いついたのか。


「アクセサリー系は諦めることにする。……下の階に美味しいクッキー屋さん、あったよね。志賀先輩は甘いものは好きかな?」


「……あいつ、好き嫌いはないよ」


どうやら、思いついたのはクッキーだったらしい。

……本当に分かりやすいな。



俺の返事を聞いた晴山さんは、ニコッと笑って頷いた。


「そっか、よかった!じゃあ、クッキーにする!」

「晴山さん」


あそこのクッキー、好きなんだよね、とご機嫌に歩き出した晴山さんの後ろ姿に呼びかけると、彼女は振り返って首を傾げた。


「悪いけど、俺も買いたいものがあったのを思い出した。
お互い買い物が終わったら、正面入り口で落ち合おう」

「うん、わかった!」


にっこり笑って、晴山さんは再びくるりと俺に背を向けると、エスカレーターに向かっていった。


「……」

彼女の姿が見えなくなってから、小さく息を吐き出す。

そして俺も、彼女が向かっていった方向にくるりと背中を向けた。