「……速水くん?」
なんとか憂欝を振り払って図書室に辿り着いた私は、ドアの近くでパラパラと本をめくっている速水くんの姿を見つけ、声をかけた。
ただ本を手にして立っているだけなのに、なんだかすごく絵になる。
一瞬、声をかけるのを躊躇ってしまったほど。
もともと知的な顔立ちだし、実際成績は学年トップだしで、この静かな場所が誰よりも似合っているような気がした。
私の声に手元の本から視線を上げた速水くんが、眼鏡を指で軽く押しあげながら、持っていた本を本棚に戻した。
そしてゆっくり私の方に向くと、「こっち」と囁きほどに微かな声で言って、図書室の奥の方へと歩き出す。
放課後の図書室は、勉強する生徒たちでそれなりに席が埋まっていた。
シン、と静寂が満ちる部屋に響く、微かな衣擦れや、ペン先がノートを引っ掻く音。
どれもいつもは気にも留めないものなのに、この部屋ではやけに存在感を放っていた。
「……どこに行くの?」
奥へ奥へと進んでいく速水くん。
空いている席もあるのに、それには一瞥もくれずに進んでいく。
私の疑問にも答えてくれないまま、しかしやがて彼は足を止めた。
────ガチャ、という微かな音と共に。

