……あー、もう。
肝心なところで役立たずなんだ、私。
ちゃんと私があのとき否定できていたら。
嘘でも「ただのクラスメイト」だって言えていたら、きっとこんな展開にはならなかった。
なのに、ココアをこぼしたくらいで言えなくなっちゃうなんて。
それどころか、間近で見た志賀先輩に見惚れちゃうなんて。
情けなさすぎ……!
「……はぁ」
すたすたと足早に歩いていた速水くんが、徐々にスピードを落として立ち止まる。
賑やかな人混みが少し遠くに感じられる、階段の踊り場。
他よりも、どこか涼やかな風が流れているような気がした。
私の手を離さないまま、私に背を向けた速水くんは、何も言わずにため息だけを吐き出して。
そんな速水くんの背中がいつもの堂々とした彼とは思えないほど頼りなさげに見えたから、なんだか私の方が泣きたくなってしまった。
失恋の痛みなんて、私にはわからない。
そんなふうに深く、まっすぐに人とかかわったことが私にはないから。
「ホント、陽ってすごいだろ?……普通、自分がついこの間振った相手にあんなこと言える?
したたかすぎるって」
さすがに堪(こた)える、と自嘲気味に笑って、速水くんはもう一度ため息を零した。

