好きになっちゃダメなのに。


「……本気でびっくりしたんだけど。驚かすなよ」


不機嫌そうに眉を寄せてそう言った速水くん。

私は、ごめん、と軽く謝って、速水くんと向かい合わせにくっつけてある席についた。


「驚かすつもりはなかったんだけど。……ていうか、速水くんがぼーっとしてるなんて珍しいね」

「別に、ぼーっとなんてしてない。晴山さんじゃあるまいし」


つんとした返事に、私は思わず苦笑してしまった。

速水くん、今日機嫌悪いなぁ。


「もう。……あ、そうだ。私飲み物買ってくるけど、速水くんも何か飲む?」


教室からここに来るまでの間に買おうと思ってたのに、すっかり忘れていた。

午後の授業を受けているときから、ずっとオレンジジュースが飲みたくてしょうがなかったんだよね。


私は鞄の中から財布を取り出して、速水くんの返事を待つ。


少し考えるような表情だった速水くんが呟くように「コーヒー」と結論を出したのを聞き取って、私は席を立った。


「ブラックだよね。ホットでいい?」

「ん」


無愛想なままの速水くんに、「了解!」と笑い、私は音楽準備室を出ると、自動販売機に向かって歩きだした。