だけど、あのときは冷静に自分を見る余裕なんてなかった。

ぶつける相手を失った、とがった感情をどうしたらいいのか分からなくて、偶然居合わせた彼女にどうしようもない問いを向けた。

俺の中で晴山さんは、ひとりじゃ何もできない、気の弱い同級生、それだけだった。

だから、本当は彼女の答えがどうであろうと、陽のことは諦めるつもりで、そういう答えを期待して彼女に訊いた。


────そうだよ、一度振られたなら潔く次の人、探すべきだよ。そのほうが男らしいよ。

そう言ってくれたらきっと、やっぱりそうだよなぁって自分の気持ちを無理にでも消す努力をしただろう。

傷付くことから逃げていそうな彼女なら、きっとそんな言葉をくれると思っていた。


だから、まさかあんな強い言葉が返ってくるなんて思わなくて。

そのことに少なからず驚いて、そして初めて見る晴山さんの強い意志が通った言葉が少しだけ面白くて。

思わず、彼女の言葉に従うように、陽のことを好きでい続ける覚悟を決めた。


でも、晴山さんの言葉が正しい答えだったなんて、微塵も思っていなかったし。

彼女の言葉が男らしさの意味の正解だと思ったから従ったわけじゃない。