女は何かを失う程美しくなると思う。
夫を亡くした未亡人なんかが分かり易い例のひとつだ。
俺の愛子は失えば失う程に美しくなっていった。
俺の中の愛子への愛情もどんどんと増していった。
究極の美には究極の悲劇がいる。
俺は愛子と握っていない手をベッド近くの小さなタンスに移した。
引き出しが三段になっている木製のタンスの真ん中の引き出しから、静かにナイフを出した。
俺は腰を上げ、愛子に刺激を与える。
愛子は「んっ」と喘ぎながら天井を見る。
愛子の細く白い首にナイフを向ける。
愛子が天井から俺の方へ顔を向けると、すぐ目の前にあったナイフに驚いたのかそのまま固まった様にナイフの刃先を見た。
ぎゅうと締め付けられるような緊張がまた快感になる。
「しゅっ、俊介・・・?」
俺は驚く愛子の顔を堪能してから、微笑んだ。
「まさか殺すわけないから」
俺はそう言ってナイフを愛子の前から下げた。
「愛してるよ。愛子」
そして俺はナイフを自分の腹に当てた。
「ちょっと!なにするのっ!?」
愛子は静かに取り乱すように上半身だけで俺の方へ迫ってきた。
俺は握っていた手を強く握る。
「痛い」と愛子はこぼす。
俺はナイフを腹に少し突き刺した。
赤い血が滴る。
愛子は涙を流しながら俺を見る。
空いている手で俺のナイフを止めようとするが力が抜けていて意味を成さなかった。
「やめてよ・・やめてよ俊介・・・もう私にはあなたしかいないの・・・んっ」
俺はナイフを奥に刺しながら腰を突き上げた。
重なる快楽の中、愛する人を目の前で失う。
その時の女程究極に美しいものはあるのだろうか。いや、無いだろう。
俺に突かれ恍惚の表情を浮かべながらも、愛する俺を目の前で失う悲しさを隠せず切なく涙を流す愛子。
その時の愛子が最高に美しく、輝いていた。
痛みに耐えながらナイフを一気に左脇腹から右へ引く。
「あっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁっ!!」
愛子が涙で取り乱した直後、俺の意識はプツリと消えた。
わずかに感じる愛子の体温、そして究極に美しい愛子の姿が脳裏に浮かんだが、俺と一緒にすぐ消えた。


