【短編】失う度に美しくなる俺の愛子


その日から付き合い初めて1ヶ月くらい経つと愛子はよく笑う様になった。

愛子に会って初めて、悲しみ以外の感情を持った女に愛情を感じた。

多分愛子は本当の意味で俺の初恋かもしれない。

それでも、悲しむ愛子は格別に美しかった。


愛子は特殊だった。

俺といる時も時折、影のある悲しげな顔をしたりした。

他の女は薄れていった悲しみによる美しさが、愛子は薄れていなかった。


俺はそんな愛子を心から愛した。

この手紙を書いてる今だって愛してる。


付き合い続けて1年くらい経った時、俺は昔考えていた事を思い出した。

周りの者が死んだ時に悲しむ女が美しいこと。

しょっちゅう女の身の回りで人が死ねばいいと考えていた。


愛子は知り合いが死んだ時、どんな美しい表情を見せてくれるのか。

俺はとても気になった。


愛子の家族は父と母と弟だけ。いとこも祖父母もいないと聞いた。

じゃあその3人しかいない家族の誰かが死んだらどうなるのか。俺はとても気になった。


愛子の実家に行った一週間後、愛子の弟を殺した。

部活帰りの夜道で襲い、声を出されないように首を掻っ切った後、顔や手足を腫れるまで彼が持っていた野球バットで殴打した。

なるべくひどい状態の方が愛子の悲しみもより深くなるだろうと思ったからだ。


案の定、愛子は深く悲しんだ。深い悲しみのおかげで光り輝く様に美しくなった。

俺も葬式の手伝いをしながら、愛子を支えながら、ずっと美しい愛子の傍にいた。


その晩のホテルで愛し合った時、悲しみながらも快楽に喘ぐ愛子の顔がこの世で一番美しいと思った。

「私のことを支えてくれてありがと」

ベッドの中で愛子はそう呟いた。

でも俺は100%愛子の為にやったんじゃない。ほとんどは、俺の美しさへの欲望からだったから。