「まだこの前のこと怒ってるのかよ。どうせあのガキにフラれたんだろ?忘れろよ、歳聞いてビビった男のことなんて」
「なっ……!」
忘れろとか、ビビったとか、なんで靖久に言われなきゃならないの。
彼方くんのことなんてなにも知らないくせに。優しくて、どれだけ真っ直ぐに私と向き合ってくれたかも知らないくせに。
私がどれだけ彼に救われて、彼を好きで、どれだけ忘れたいか願っているか。
全部、全部知らないくせに。
溢れ出た感情に、カッと頭に血が登り、私は空いていた左手を振り上げようとした。
「誰が、ビビったって?」
その時、一言とともに右手から離れる靖久の手。
見ればその手は、大きな手に掴まれており、強い力に引き離されたのであろうことをさとる。
手からたどるように視線をむければ、そこにいたのは彼方くんだった。
「かな、た……くん?」
「なっ……なんだよお前っ、いっ!!」
彼方くんはいつものような笑顔は見せず、無表情のまま彼の腕を捻り上げる。その動きに靖久は痛々しく顔を歪め声をあげた。



