うそつきは恋のはじまり




ガタン、ゴトン、と揺れる電車に彼はいない。

もしかしたら大学前の駅から乗ってくるかも、私を探してこの車両までたどり着いてくれるかも、なんて。淡い期待は当然都合よくいくわけもなく、電車はあっけなく自宅の最寄り駅へと着いた。



ま、現実なんてこんなもんだよね……。はは、とこぼれた乾いた笑いに改札を抜け歩き出した。



「七恵」

「え……?」



その時、突然名前を呼んだ声。もしかしてと振り向くと、そこには改札そばの壁際に立つ姿がひとつ。

彼方くん……ではなく、靖久の姿が。



「……はぁ、」

「ってなんだよその反応!折角待ってたのに!」



『お前かよ』とでも言うように、思わずこぼれた深い溜息。露骨に嫌そうな反応をした私に、靖久は文句を言いながらこちらへ近付く。

一瞬でも期待した私がバカだった……。



「お前と話したくて家行ったけど電気ついてなかったからさ、こっちで待ってた」

「しつこいなぁ……私は話すことなんてないし、やり直さない。帰って」

「待てって」



そっけなくその場を去ろうとする私に、靖久は腕を掴み引き止めた。



「もう、やだ!離してよ!」



つい荒くなる声に、近くを歩くサラリーマンや駅員は何事かとこちらを見る。それでもまだ、靖久は引き下がることはない。