でも、泣いても時間は戻らない。うそをついた自分も、消えない。
なら次の道に進むしかないんだ。
その日から毎日、私は電車に乗ることはなかった。
家の近くのバス停からバスに乗り会社へと向かう私は、すっきりとしたスキニーパンツにヒールのある黒いパンプス。髪も、巻いたりせずに後ろでひとつに結っている。
これまでの自分を、捨てるように。
「七恵、そのネイル可愛いじゃん」
「本当?昨日時間かけて塗ったんだー」
それから、二週間ほどが経っただろうか。
12月となり、寒さも本格的となってきたある日の昼休み。隣のデスクでおにぎりを食べながらこちらの手元を見る莉緒に、私は持っていたお茶のペットボトルを置き両手を見せた。
爪には、ピンクベージュに小さなストーンを乗せたシンプルなネイルが施してある。
「前までネイルといえばピンク色にラインストーン乗せてハートのシールとかゴテゴテ系ネイルだった人が、珍しいじゃん?」
「たまにはねー。やってみたらこういうシンプルなほうが、周りからも評判よくて」
「まぁ、そのほうが上品で綺麗めだからねぇ」
だよね、と笑って自分でも爪を見ると、目の前の莉緒の視線は私を上から下までじっくりと見る。



