「吉木さーん、ちょっといい?」
「はーい……じゃあ七恵、戻ってきたら書類で聞きたいことがあるから、それまでにその死にそうな顔どうにかしておいてよね」
そう言って莉緒は席を立ちフロアを出て言った。
デスクに伏せたまま目を向ければ、目の前にあるのは自分のスマートフォン。ジャラジャラとついたケティーちゃんのストラップたちの間に、金平糖のストラップがキラリと光る。
忘れる、か……。
臆病な私は逃げることしか出来なくて、向き合うことも、嫌われるのを覚悟で追いかけることも出来ない。
だって傷付きたくないから。傷付くのは、痛いから。
……なら確かに、忘れるしかないよね。
ちょっとの恋。少しの期間、ちょこっと付き合っただけ。それくらいならすぐ忘れられるもん。
出会いなんてたくさんある。恋の数だけ成長するの、人生のこやしにするの。
「っ……よし!そうと決まったらこれも取る!」
自分に言い聞かせるように、決意の証とでもいうようにストラップを外そうと手に取る。
けれど勢いのいい手元はすべってしまい、スマートフォンは床にカシャンッと音を立てて落ちた。



