うそつきは恋のはじまり




「手、すりむいてる」

「へ?あ、本当だ!でも平気です!ほら……私より、美少年は日本の宝ですから!!」

「は?」



あぁ、もう私なにわけのわからないことを!



『○○駅、○○駅ー……』

「あっ!じゃあ私ここなんで!」



ちょうど聞こえたアナウンスに、私はわたわたと電車を降りる。



「あ、ちょっと待って……」



そして、なにかを言いかけた彼の言葉を遮るようにプシューとドアが閉まった。



ふ、ふぅ……。なんとか乗り切った。って、はっ!ここ降りる駅じゃない!

慌てるあまり、自宅の最寄り駅より二駅も手前で降りてしまったことに気付く。

次の電車は……って、あ!あれ終電だった!



「……はぁ、歩くか」



がっくりと肩を落とし、私は改札を出て家までの二駅分の道のりを歩き出す。



あの男の子、すごくかっこよかったなぁ。あんな美少年なんているんだ。

見れば私の右手には、投げた時にぶつけたらしい小さなすり傷。



『手、すりむいてる』



こんな小さな傷ひとつにも気付けるなんて、きっと気遣いの出来るいい子だ。

見た目も中身も素敵な男の子。なのにそれに対して、ああいう場面で上手く立ち振る舞いできないところにもまた、自分の幼さを思い知る。



「美少年と少し話が出来ただけでも、ラッキーだよね!うん!」



そう自分を慰めて、すっかり酔いの覚めた足取りで家を目指し夜道を歩いた。