「……ごめんなさい、もう彼方くんとは会えない」
『え……?』
「さっき、聞いたでしょ?嘘ついてたの、騙してたの」
溢れ出しそうな感情をこらえ、必死に冷静な声を作る。
少しでも感情が出たら、言い訳ばかりしてしまいそうだから。好きだから、だから嘘をついたんだって。嘘つきな私は、それでも今この瞬間も彼方くんを好きでどうしようもないんだって。
でも、だけど。それでも。
『……七恵、それは』
「ごめんなさい、……さよなら」
それだけ一方的に言うと、私はプツッと電話を切る。ツー、ツー、と響く無機質な音に、力が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
最低だ、私。バレたから、逃げる。怖いから、逃げる。
『嫌い』そう直接言われてしまうことのほうが怖いから。ただ、逃げる。それしかできない。
泣く資格もない私は、涙をこらえて、ただその場に座り込んでいた。



