うそつきは恋のはじまり




「彼、方……くん」

「七恵、今の……」



驚く彼方くんと、顔のこわばる私。それらに靖久は状況を察したように納得する。



「七恵、お前彼氏に歳言ってなかったのかよ。ま、そうじゃなきゃこんな若いのがお前なんて相手にしねーか」



ふん、と笑う顔に、なにも言い返すことも言い訳もできない。



「おいガキ、教えてやるよ。こいつ30歳なんだよ。今よくたってすぐ結婚だ出産だ言い出すぞ?見た感じお前若そうだし、そこまで考えられないだろ?やめとけよ、こんなやつ」

「っ……」



彼方くんがどんな反応をするのか、なんて答えるのか。それらを知るのが怖くて、顔が見られない。これ以上、この場にはいられない。

そんな気持ちに、私はその場から逃げるように走り出した。



「あっ……七恵!」