「うん、分かってる。七恵は未練とか、前の人のことを引きずったまま誰かと付き合うような人じゃないだろうし」

「え……?」

「ただ悔しくて悲しくて、自分のちっぽけさに、泣きたくなるだけなんだよね」



悔しくて悲しい、自分のちっぽけさ。それは、さきほどの私の心に驚くほど綺麗に当てはまると思った。

悔しい、自分は下に見られていたんだということ。

悲しい、好かれようと頑張った自分も、彼の好みにはなれなかったこと。



ちっぽけでダメな自分に、泣きたくなる。



「……ダメだねぇ、大人なのに。しっかりしなきゃ、いけないのに」



俯き呟いた言葉に、歩く足は止まる。そして、私のブーツと彼方くんのスニーカーが映っていた視界が涙で滲んだ。



「あの日、沢山飲んで泣いて忘れたはずだったのに。……楽しかった日のほうがもちろんたくさんあるからさ、泣いちゃう」



彼は偉そうで、いつも私に呆れていた。だけど過ごした一年は楽しくて、ちゃんと好きだった。

その記憶があるから。余計に悔しくて、涙が出る。



大きな通りの道の端でぽろぽろと涙をこぼす私に、彼方くんは伸ばした両腕でぎゅっと私を抱きしめた。

包まれた瞬間、ふわりと香る彼の匂い。