「そんなだから昔から足も遅くて。中学の頃好きだった女子に『かっこわるい』って笑われたこともあったりして」
「えぇ!?ひどい!意外だけどいいと思うけどなぁ」
「そう?」
「うん!だって人には向き不向きがあるんだもん。足遅くたって、歌が下手だって、彼方くんは彼方くんだよ」
意外なところも、全部含めて。どんな彼方くんだってだいすきだよ。
えへへ、と笑った私に、彼方くんは少し驚いた。かと思えば不意に近付けた顔。そしてここが映画館の真ん中ということも忘れ、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
「か、かなっ……!?」
「ありがと」
「へ?」
「七恵の言葉、超うれしい」
離した顔に浮かべられるのは、嬉しそうな笑顔。普段は大人びている彼の年相応な幼い笑顔が、心を温かくする。
きっと、本当はあんまり言いたくなかったのかもしれない。『幻滅されるかもしれない』、そう不安なことを話すのは、すごく勇気がいるから。
だけど彼方くんは話してくれた。そのことがすごく嬉しい、のに。余計心を締め付ける。
私は、このままでいいの?
勇気を出さなくて、いいのかな。
映画の開始を告げるように、辺りは暗くなりだした。



