「いや、少しかすった程度ですけど……すんません」

「あぁ!?俺が大げさに言ってるってのか!?ふざけやがって!!」



真っ赤な顔をしてネクタイも緩めたそのサラリーマンは、きっと私以上の酔っ払いなのだろう。

揺れる車内ですこしぶつかっただけにも関わらず、イチャモンをつけるように男の子へ絡む。

けれど一方の男の子は冷静で、余計にサラリーマンはヒートアップする。



「このガキっ……!」



そして自分より背の高い男の子の襟ぐりに掴みかかった。



まずい!あの勢いじゃ男の子が殴られる!

とっさにそう判断した私は、バッグを座席に置いたまま立ち上がり、急いでふたりの間へと割り込む。



「っ……こらぁ!なにしてんの、おじさん!いたいけな若者に!」

「はぁ!?うるせーな!邪魔すんな!」



その手を男の子から離させるものの、更にサラリーマンは怒る。



「邪魔とかじゃなくてっ……酔っ払って人にイチャモンつけたりしちゃダメでしょ!落ち着いて!」

「クソっ……女は黙ってろ!」



サラリーマンが、怒りに身を任せ振り上げる右手。

普通の女性ならここで怯むかもしれないし、大人の女性なら言葉で諭して止めるかもしれない。

だけど酔っ払っていて怯みもしない、諭し方もわからない私は、こうするしかない。