「……あの、けど、」
少しの無言のあと、絞り出した言葉にならない言葉に、北見さんはパッと手を離した。
「なーんてな」
「へ?」
「冗談だよ、冗談。本気にすんなって」
って……冗談?
ますます状況についていけない私は間抜けな顔をしていると思う。そんな私に、彼はケロっとした顔でははっと笑った。
その顔から見るに、私が北見さんを選べないことなど分かり切っていたうえでの冗談だったのだと知る。
「う、嘘つくなんてひどい……!」
「悪かったよ。けどそこまで驚かれるのはさすがにヘコむなー、そんなに俺は対象外?」
「対象外っていうか、その……」
そういう目で彼を見ていなかったからというのもある。けど。
「変だよなぁ、お前が彼氏に対して感じてる壁がなにひとつない俺を選べないなんて」
「それは……」
「なぁ、お前が俺を選べない理由は?あいつなら選べる、理由は?」
私が、北見さんを選べない理由。彼方くんを選ぶ理由。
彼方くんの手だからつなぎたい、愛おしくて抱きしめたい、些細なことに躓いて泣きたくなる。
すべての理由は。
「彼方くんが、好きだから……」
彼方くんだから。彼方くんのことが、好きだから。だから私は、嘘つきのままでも彼のそばに居たいと願った。
揺らがない、ありのままの想い。



