「真剣な顔して、どうしたの?」
「な、なんでもない!なにも読んでない!!全然読んでないから!!」
……ばれてるし、必死すぎだし。ばれていないとしても、そんな慌て方されたら疑わしいくらい。
慌てる七恵の姿に、にやけてしまいそうになる口元を締め七恵と本屋を歩き出す。
「ごめんね、待った?」
「ううん、全然。彼方くん19時にあがりって言ってたから、それまで莉緒とお茶してたんだ」
「そっか、莉緒さんと」
莉緒さん……よく七恵から名前は聞くけれど、一度しか会っていないから顔はおぼろげにしか覚えていない。
けどその時は『先輩』と聞いていたから納得できたけれど……今思うと『同じ歳』なんだよなぁ。七恵と真逆すぎて、イメージがつかない。
何気無い会話をしながら、ふたり手をつなぎ街の中を歩いていく。あたたかなその小さな手に、またこみ上げる愛情。
「あれ、彼方?」
本屋を出てからしばらく街を歩いていると、不意に呼ばれた名前。聞き覚えのよくあるその声に足を止めて振り向くと、そこには一人の小柄な女性の姿があった。
見た目、30代になるかならないかといったくらいに見える若い顔立ちに、茶色いコートを着たその人は、俺の父の妹……そう、幼い頃からよく遊んでくれていた叔母の美紅ちゃんだった。
「美紅ちゃん!」
「あ、やっぱり彼方だった」
父親の家系そっくりの小さな身長をした彼女は、くりくりとした丸い目で俺を見上げてにこりと笑う。
偶然、突然現れた姿に、思わずつないでいた七恵の手をパッと離した。



