「はっ!まさか、だからわざと『嘘は嫌い』って……!?」

「うん。正直に言えるタイミングづくりをしてたつもりなんだけど……七恵が余計焦ってたのが、ちょっと面白かった」



耳のそばで、くすくすと笑う声が聞こえて余計恥ずかしくなってしまう。



「けど、そんな嘘も嬉しかったよ。近付こうとしてくれてる、俺のためにあれこれ悩んでくれてるって、そんな七恵の愛情を感じた」



全て、バレていた。だけどそれすらも『嬉しい』と笑ってくれる。私が彼方くんを想う気持ちは、伝わっていたんだ。



「彼方くん……」



涙で濡れた睫毛に、きっとマスカラは滲んでしまう。だけど堪えきれず、涙を流し続ける私に、彼方くんは顔をあげさせると大きな手で頬を包み涙を拭った。



「けど俺は、好きなものを幸せそうに抱き締めてる七恵が、可愛くて好きなんだよ」



見つめる茶色い瞳には、涙でぐしゃぐしゃな私の顔が映る。優しくて真っ直ぐな、嘘いつわりのない眼差し。



「30歳で幼くて、年相応じゃなくても、前に七恵が俺に言ってくれたのと同じ。どんな七恵でも七恵には変わりないから」



それは、以前私が彼方くんに言ったこと。



『足遅くたって、歌が下手だって、彼方くんは彼方くんだよ』



同じ気持ちを、共有しているんだね。

私がどんな彼方くんも受け入れたいと想うように、彼方くんもどんな私も受け入れようと見つめてくれる。