「苦しいけど……そのままの私でいるのも、つらいの」
「つらい……?」
「彼方くんが『好き』って言ってくれた私でいる限り、私は彼方くんから進めない。彼方くんのことが、忘れられなくなっちゃうの……」
『七恵のことが、好きだから』
『全部が可愛いから、かな』
彼方くんが、そう言って私を受け入れてくれたこと。すごく嬉しかった。
笑ったり否定しないで、いつも優しく笑ってくれる。彼方くんの笑顔を、忘れようと思って忘れられるわけがない。
泣きじゃくるように言葉をこぼす私に、その腕は体をぎゅっと抱き締めた。まだ冷たい体から、冬と彼の匂いがする。
「じゃあ、進まないで。ずっとここにいて俺のことだけ見ててよ」
「え……?」
それって、どういう……?
「俺、なんとなくだけど七恵がもっと年上なの分かってたよ」
「えっ……えぇ!?」
「まさか30歳とは思わなかったけどね」
ば、バレていたの!?
まさかの彼方くんからの一言に、彼の胸に顔を押し当てたまま間抜けな声をあげた。
「な、なんで!?やっぱり20歳には見えなかった!?顔が!?」
「え?ううん、そうじゃなくて。俺が高校生の頃から時々駅で見かけてたから、どう計算しても20歳以上だよなーって」
「なっ……!」
か、完全に知られていた……!!
必死に嘘をついていた私は彼からすればさぞかし滑稽だっただろう。うぅ、恥ずかしい……!



