うそつきは恋のはじまり




「コーヒーで大丈夫?」

「うん、ありがと」



テーブルに置いたカップに、彼方くんは一度柄を眺めてから、特にそれ以上気にする様子もなくコーヒーを一口飲んだ。



「服装、変えたね」

「え?」

「化粧も髪型も、全部違う。なんで?」



これまでと違う私の見た目に、彼方くんから向けられる疑問。じっとこちらを見る瞳に、私は彼方くんの隣へと座る。



「なんでって……年相応に、」

「そういう格好、好きなの?」

「……ううん、ヒラヒラしたスカートのほうが好きだし、髪もいじりたい。爪もピンクがいいし、化粧も、なんかしっくりこない」



何日か格好を変えてみたけれど、どこか自分ではない感じがした。自分に嘘をついているような、息苦しさを感じた。



「でも決めたの、これまでの自分とはさよならするって」



変わらなきゃ、進まなきゃ、いけないって思うから。



「……苦しくない?」



ぼそ、と呟かれた一言に顔をあげると、こちらを見る彼方くんの眼差しはとても優しい。

子供に問いかけるような、柔らかな瞳に、どうしてか涙が溢れてしまう。彼の穏やかさが、心を素直にさせる。