「毎日、終電までここで待ってたんだけど、会えなかった」
「……バス通勤に、してたから」
「バス?あー……その手があったか。そこまで避けるくらい、俺嫌われてたんだ」
『嫌われてた』、そう呟く彼がどんな顔をしているのかは見えない。けど、笑顔じゃないことだけは分かる。
違うよ、嫌いになったんじゃないよ。好き、大好きだよ。
ねぇ彼方くんはどうして待っていてくれたの?こんな寒いなか、こんなに手をつめたくさせて。
知りたい、伝えたいことが沢山あるよ。怖いけど、だけど。
『人の彼女になにちょっかい出してるわけ?』
言い切ってくれた彼の心を、信じて。
「っ……彼方くん!」
名前を呼ぶと同時に、そのジャケットの裾をくいっと引っ張る。
「わ……なに?」
「少し、話をしませんか!」
「え?」
「……伝えたい、ことが、あるの」
こちらを向いた丸い瞳にしっかりと向き合って言うと、彼方くんは少し驚いてから小さく頷く。
「……うん、」



