うそつきは恋のはじまり





翌日、私の姿はとあるビルのフロアにあった。



「川崎さん、このデータ入力お願い」

「はーい、分かりました」



先輩である女性社員から受け取った書類を手に、パソコンに向かい合うとカチカチとキーボードを鳴らす。これが、私の仕事だ。



私の職場は、『ワールドプラネット・コーポレーション』という通信販売専門の会社。

美容機器や電化製品を中心に、日用品やジュエリーなど様々な物の通信販売をしており、業界ではそれなりに大きい会社だと思う。



けれど私は所詮事務員のひとり。商品部の片隅のデスクで、指示された入力や事務作業を行なうだけの社員。

取引先に赴いたり商品企画に励む他の部署の人とは違く、事務員の制服である白いブラウスにグレーのベスト、黒のスカートにセーターを着た格好でパソコンに向き合うだけの日々。



まぁ、仕事の能力もやる気も高くはない私には、これくらいがちょうどいいのだと思う。



「七恵ー、この書類で聞きたいところがあるんだけど」



隣のデスクでそう話しかけるのは、今日はその黒い髪をヘアクリップでひとつにまとめた莉緒。

同じくこの部署て事務員として働く莉緒は、その綺麗な見た目故に秘書課から『異動してこないか』と声をかけられているけれど、断っている。

というのも莉緒もまたやる気が高くないので、事務員で充分、なのだそう。