佐紀は、なるべく、
祐太の事に触れないようにしていた。
思い出せば、辛くなる。
思い出せば、いなくなった事実と、
直面せざるを得ない。
もう、どうしようもない事なので、
この辛さを、どこに持って行けばいいか、
わからない。
だから、祐太の事が頭をかすめると、
何か別の事を思い、
その辛さから逃れていた。
しかし、それは突然、やって来た。
佐紀は今、激しい悲しみに襲われている。
それは何の前触れもなく、
突然のことだった
最初は何か、懐かしい感じが、
湧き上がってきたのだった。
その感覚は、祐太と一緒にいた時の感じに
似ていた。
別に、祐太を思い出した訳でもないのに、
ただ、その感覚だけが、ふわりと、
佐紀を包んだのだった。
そしてその後、稲妻に打たれたかのように
大きな悲しみが襲って来た。
まるで嘔吐のように、胸の奥底から、
号泣が溢れだしてくるのだった。
佐紀は、喉の奥から上がってくる嗚咽を、
歯を食いしばって、耐えた。
しかしそれは、抗えるレベルのものではなく
喰いしばった歯の隙間から、
声が漏れて出た。
佐紀は、戸惑っていた。
この悲しみが、どこからやって来るのかが、
わからない。
しかも、不意を突かれたかのように、
何も考えていない時に、
ふっと、湧き上がってくるのだった。

