佐紀が行こうとすると、
後ろにいた長髪の男子が、
「あれっ、君、
どこかで見た事あるんだけど」
「ええ、私、去年の春、
ここで一緒に合宿を……」
佐紀がそう言うと、その男子は、
驚いたような顔になり、
「えっ、あっ、そうそう、いたよね。
いた、いた。
うん、俺、可愛い子は、忘れないんだ」
そう、しどろもどろになりながら言った。
佐紀は、
“コイツ、覚えてないな”
そう思ったが、黙っていた。
多分
ナンパの常套句なんだろうと思いながら
先ほどの男子に、
「じゃあ、行ってみます」
そう言うと、長髪の男子が、
「あっ、じゃあ、これ、
持って行けよ」
そう言って、みたらし団子のパックを
差し出した。
「いえ、私は」
佐紀が断ると、
「いい、いい、やるよ。
持ってけ、ドロボー」
そう言って、強引に、佐紀に手渡した。
佐紀は、困惑しながらも、
面倒臭い事態に発展するのを避けようと、
受け取ることにした。
「じゃあ、ありがとうございます」
佐紀が、パックを手にして歩き出すと、
後ろから、
「俺、バスケ部6番、団子屋のコウジ、
よろしくねぇ~」
そう言う声が聞こえた。
佐紀は、
“軽いな。
きっと、手を振ってるんだろうな”
そう思ったが“それを見たいという誘惑”を
必死に押さえつけ、振り返らずに、
歩いて行きながら、少し微笑んだ。

