佐紀は、静かに聞いていたが、
まだ経験も浅く、
お婆さんの言っている事は
漠然としか、わからなかった。
ただ、“痛み”の部分だけは、
よくわかった。
佐紀は、
自分がケガをした時の事を思い出し
“確かにそうだな”と、納得していた。
お婆さんの独り言は、まだ続いていた。
「なんか、辛い事があったかも知らんが
悲しさを知らん人間には、
幸せも、わからん。
そのうち、いい事もあるじゃろう。
それを見てみたいとは、思わんかね」
しかし、今の佐紀には、楽しい事など、
全く、想像する事が出来なかった。
佐紀の気持ちは、
暗く沈んでいるがために、
お婆さんの言葉は、佐紀の上を、
滑って行くだけだった。
すると、前のベッドからも、声がした。
「人生、山あり谷ありやからなぁ」
佐紀が目を上げると、
前のベッドのお婆さんが、こちらを見ていた
すると隣のお婆さんが、
「そうじゃ、じゃから人生は、
面白いんじゃがのぅ」
「せやなあ。
長いコト生きとうと、
いろいろあるわなあ」

