周りの木々は、そろそろ、
冬支度を始めていた。

急な長い坂道の右には、桜並木、
左には、銀杏が植わっていた。

桜はもう、枝だけの裸の姿をさらし、
銀杏も、化粧を変え始めていた。


その坂道へと続く曲がり角から、
トレーニング・ウエアを着た女の子が、
次々と現れてきた。

苦しそうな顔をして、坂道を上り始める。

しかし足は、小刻みにリズムを刻んでいた


タッタッタッタ…………


  「はっ、はっ、…………はっ、はっ」


タッタッタッタ…………


  「はっ、はっ、…………はっ、はっ」


その先頭を走っていたのは、佐紀だった。

前方を見上げると、勾配のキツい坂が、
一直線に、延々と続いている。

佐紀は、うんざりとした目で坂を見て、


  “なんで体育館を、こんな山の上に
   造ったんだろう”


この坂にかかるといつも、そう思っていた。

往きは下り坂だから、比較的、楽だが、
帰り路、十分走り疲れた後に、
この坂が現れるのだった。


しかし、その後いつも、


  「まっ、練習環境としては、最適だな」


そう思い、坂の事は考えないようにして、
ただ黙々と走るのだった。