「ふう」

大きく息を吸うと、香里奈は歩き出した。

直樹は、部活が始まったから、

忙しくなり、いっしょに帰ることが少なくなっていた。

勿論、祥子も恵美も。

1人、店まで歩こうと、

校舎を出てすぐ、

後ろから呼び止められた。


「速水さん」

香里奈が振り返ると、

笑顔の優がいた。

最初、誰かわからなかったけど、

香里奈は思い出した。

淳の事件の時、屋上の階段近くにいた優を。

「ああ〜」

と言ったものの…

名前を知らない。

優は、クスッと笑うと、

頭を下げた。

「隣のクラスの高木優です」

「隣のクラス!?」

香里奈は優を見つめた。

「突然で、ごめんなさい」

優はまた頭を下げ、

「速水さんは、有名だから…それに」

優は体の後ろから、隠していたものを出した。

「あたしも、音楽やってるんで」

それは、ギターケースだった。

普段は、布を捲いてギターケースに見えなくしているのだが、

今は布は取っていた。

優は、香里奈に満面の笑顔も見せていた。