振り返る香里奈。

里緒菜は、香里奈をじっと見つめ、

「あんた…歌…やるの?」

香里奈は足を止め、

「あたし…」

口ごもる。

「志乃さんの代わりとかじゃなくて…自分が、音楽をやる気になったの?」

「あたし…」

香里奈は、視線を落とした。

音楽をやる…。

考えてなかった。

でも…。




歌って…。

志乃の言葉。

腕を見ると、思い出す。

血を吐きながら、香里奈をつかんだ…

志乃の力を。

香里奈は、里緒菜の目を真っ直ぐ見返した。

素直になろう。

自分の心に。

香里奈は頷いた。

「音楽やるわ」

香里奈の言葉は力強い。

拳を握りしめ、

「楽器とかできないけど…歌はできる。歌える…歌いたい!」

香里奈は叫んだ。

里緒菜は腕を組み、微笑んだ。

「香里奈の歌。楽しみにしてる」

「期待しといて」

香里奈は前を向き、歩きだした。

「送るよ」

直樹が後を追う。


香里奈は思った。

歌いたい。

志乃の言葉で、香里奈は解放された。

それは、香里奈の目覚めの瞬間だった。