ジャスミン

茉莉がこのまま消えてしまうんじゃないかという不安が俺に襲いかかる。それをはね除けるかのように、茉莉の身体をギュッと抱き締めた。

この小さな身体で全てを背負い込むつもりなのか?

その男は、本当に茉莉を愛しているのだろうか?

俺には子どもが気に入っている玩具をとられた、そう執着しているようにしか思えなかった。

どちらにしても、身体的にも精神的にも傷つけたそいつに言い様のないくらい腹が立った。


『俺さー、今までそれなりにけっこうモテてきたんだ。』

唐突な俺の話に茉莉は腕の中から俺を見上げる。

『若い頃はチヤホヤされることに天狗みたいになってたんだけど…ある時気づいたんだ。俺の見ためや家柄は周りに群がる奴らのステータスになるんだ。誰も、俺自身を見ていた訳じゃなかったんだって。それ以来、俺は信じることを止めた。必要以外寄せ付けないようにした。それが、自分を守る術だったんだ。』


茉莉は哀しそうな表情を浮かべると、俺の腰に手を回す。

まるで「大丈夫だよ。」だと言われているみたいだった。