ジャスミン

自ら車を運転しながら、颯太郎は茉莉の身を案じる。

「遅かれ早かれ、こうなる事は予想できたはずなのに、何でもっと気をつけなかったんだ！」

自分の不甲斐なさを心底後悔しながら、どうか母親が茉莉を傷つけることのないよう願う。


ピッ
車を家の駐車スペースに停めるとキーレスのボタンを押しながら足早に敷地内に入る。

ピンポーン
『どちら様でしょうか？』
インターホンを押すと長年家のことをしてくれている芳江さんの声が返ってくる。

『あっ芳江さん、俺です。』

『俺？何かの詐欺ですか？…ふふ、冗談ですよ。お入りください、颯太郎坊っちゃん。』

門の鍵が解除されると躊躇うことなく、歩みを進めていく。

ガラガラ
『お帰りなさいませ。』

『あぁ、ただいま。芳江さん、いい加減に坊っちゃん付けるのやめてくれよ。』

床に両手を添えて颯太郎を出迎える芳江にタジタジになりながらも抗議の声をあげる。

『あらあら、坊っちゃんたら随分遅い反抗期ですね。ふふ。』

『だから…はぁ。』

一生かかっても勝てる訳のない相手に抵抗する気も失せていく。