湖より、ずっとずっと大きい海。

しょっぱい場所。



わたしが行けない場所。





「海って、すごいんだね」

「おう!俺も初めて見たときビビった!
あー!話してたら行きたくなった!!」


風はそう叫ぶと、ニカッと笑って手を振った。



「行ってくるな!花!」

「いってらっしゃーい」


わたしの声を聞くや否や、風はひゅーんと見えなくなった。

相変わらず思い立ってからが早すぎる・・・。



そんな風に思わず笑っていると、近くにいた大木・・・樹齢1000年にも渡る大きな大きな木が話しかけてくれた。


「よかったのかい?言わなくて」

「うん・・・なんか、風には似合わない言葉かなって思って」



それにたぶん、すぐ忘れてしまう。

自由で気ままな風は、何にも囚われないのだから。






「ふああ・・・」


ああ、眠いなぁ。





わたしは冬にしか生きられない小さな白い花・・・雪花(ユキハナ)。

冬、しかも雪が降るほど寒い季節にしか咲かない変わった希少な花。

ゆえに雪花と呼ばれているらしい。風に聞いた。



風は物知りだ。

わたしでさえ知らなかったわたしのことを教えてくれた。


だけど風は知らなかったみたいだ。





わたしは、ある一定の気温を超えると、一気に花弁を落とし枯れていく。

わたしはそれを本能で知っていた。


もうすぐわたしは静かに静かに土に還るだろう。




だって、こんなにも、眠いのだから。






最後に風の顔が見たかったな、なぁんて。


あれはただの風じゃなくて、風の精霊の子ども。

だから、わたしの願いは叶わない。


子どもが大好きな風の大精霊様は、風にわたしの死を見せないだろうから。





・・・ああ、本当に眠い。

ぽかぽか、ぽかぽかして、心地が良い。


はらり、はらりと。
白い花弁が落ちるのがわかる。

急速に力がなくなっていくのがわかる。








ああ、風。

自由で気ままな、憧れの君。




「おやすみなさい・・・」




さようなら。