「お疲れ様です」
部屋の前に立ち、敬礼で迎え入れる巡査の奥で振り返ったのは、渋い顔をした一課の刑事達だ。
「お待たせして申し訳ありません」
にっこりと笑い麻衣が手袋を取り出した。
それに導も続く。
「たまにしか声が掛からないからって遅すぎだろ?」
「署内で一番早く走れる車に乗ってんだろ?」
嫌味にしか聞こえない言葉を室内を見回る麻衣に浴びせる。
「確かにスポーツカーなんですけどね…法定速度は守らないと…まぁ…速く走らないと燃費が悪くなっちゃいますけどね…」
然程気にした様子の無い麻衣の代わりに導が答える。
「…あんた…二課の新入りか?お相手も大変だな」
「はい…川島導です…前は指揮の方に所属していましたが、心理捜査に転向しました」
不躾に導を見ていた刑事達の目が変わる。
「あ…失礼しました…」
「大丈夫ですよ…今迄の経歴がハロー効果になってしまうと怖いので…余り自己紹介はしない様にしてるんです。宜しくお願いします」
(ハロー効果)と言う言葉に反応した麻衣が導に笑ってみせた。
「で…二課はどう見るんだ?」
室内を細かく見てまわる麻衣では無く、外から上がって来た降矢が導に聞く。
「一課は他殺だと?」
「言いたくは無いが…虐待の疑いもあってな…今、話を聞こうとしてるんだが興奮してるしな…」
婦警が泣き喚く母親を窘めているが効果は無い様子がみえる。
男児が落ちたベランダに出た麻衣が、いきなりしゃがみ込んだ。
「麻衣さん…」
慌てて導が駆け寄ろうとするのを降矢が止める。
「心配する事は無い…」
「でも…気分でも…」
「ああ…お前、二課では初めての現場か?」
周りを見ても導以外は麻衣を気にしていない。

