「刑事さんなの?」
「これパトカー?」
口々に子供達が言いたい事を言う。
「そうだよー。でね?私達は今、来たから事件を知らないの…何か知ってる子居ない?」
手帳を仕舞いながら麻衣が意外に人懐こい笑顔を見せる。
麻衣が言った(車が役に立つ)とは子供達に接する為なのだ。
導も記憶するために集中する。
「あのアパートの子供かも」
車に夢中な男の子が鼻息でガラスを曇らせる。
「アパート?」
導は出動要請が入った時の無線を思い出していた。
確かに住所にはアパート名があった。
「友達なの?」
「ううん…男か女か分からなかったから…俺たちが学校行ってる時にも公園とかに居た」
「男の子か女の子…って言うのは?」
「髪の毛…長くてボサボサで…同じ服着てて…」
麻衣と導は顔を見合わす。
(虐待か?)
確認し合わなくても考えは一致していただろう。
「他には?」
「俺が知ってるのは、それ位」
「私…」
導に引っ付いた女の子が導の顔を見上げる。
「…何か知ってるの?」
今まで習ったり、実践した捜査方法とは違い、戸惑いながらも導が目線を合わせる。
「ランドセル…取られそうになって…」
声が小さくなって行く。
「ランドセル?」
頷いた女の子が続ける。
「公園に寄り道して…ランドセルを置いて遊んでたら、公園に居たの…その子がランドセル取って走り出したから…追いかけて…」
ますます声が小さくなる。
導は女の子に顔を近づけて耳を澄ます。
「盗まれたの?」
「うん…追いかけて…何か分からない言葉を話してランドセル離さないから…取り返して…押したら倒れちゃって…」
「ピンクのランドセルを欲しがったなら女の子かな?」
張り巡らせたテープに押し寄せる野次馬達の背中を見ながら麻衣が歩き出す。
「あ…ちょっと…麻衣さん…あ…ありがとう…気を付けて帰ってね」
相変わらず車に夢中になっている子供達に声をかけて追いかける導。
ブツブツ呟きながら野次馬の間に割り込もうとする麻衣と追い掛けて止めようとする導に、野次馬達はモーゼが使った力の様に麻衣と導を避けた。
人波が割れ、好奇の目で二人を見ている。
テープの奥に立つ制服を着た警官2人が怪訝そうに麻衣と導を睨む。
「あ…お疲れ様です…あの…二課です…」
これまでは顔パス状態で現場に入れていた導だったが、慌てて手帳を提示する。
「失礼しました…」
テープを高く上げて潜らせると、その様子をみていた野次馬達が二人に注目する。
そのまま、遺体の発見された場所に向かうと思った導の予想とは裏腹に麻衣は歩く。
「ちょっと…麻衣さん…ご遺体…」
「あ…そうだよね…」
小さい範囲で覆われたシートに近付くと二人は合掌をする。

