移動中、導は何度溜息をついたか数える気力も無いまま人事課に差し掛かる。

「失礼します…」
少しだけ気を取り直した導がドアを開ける。

「川島!戻って来たんだな?」
導に手渡される予定の手帳や名刺をヒラヒラさせながらファニーフェイスな男が声を上げた。

「…国元…」
新任時の配属先が一緒だったと言うだけで懐かれてしまっていた国元の姿が少しだけ嬉しい。

(ちょっと抜けるわ)
忙しい時間帯にも抜け出す事を快く送り出して貰える様子に、国元の相変わらずっぷりが伺える。

「一度、退職してるから俺の方が先輩になるのか?」

「そうだな…お前、人事課に配属されたのか?」
エリートコースの導を上司達すら腫物の様に扱う中で、巡査からキャリアをスタートさせた国元だけが普通に接してくれた。

「ああ…お前が居ない間に、ちょっとヤラれちゃってな…」

「撃たれたのか?」
当時から書類とばかり睨み合っていた導とは違い、一番に現場に駆けつける事で実績を積んでいた国元の全身を見つめる。

「いや…身体は大丈夫だ…」

「…身体は?」

「いや…もう、何処も大丈夫なんだけど…」
少し恥ずかしそうに国元が笑う。

「精神的にか?」

「ああ…手を離されたんだ…」
自分の掌を見つめる国元を導が見つめる。

「誰かを救えなかった…のか?」
導の問いに国元が首を振る。

「被疑者だ…凄い美人のな…」

「美人か…」
(お前らしい…)と言う言葉を導は飲み込む。

「で…端折るけど…お前の上司…麻衣ちゃんに助けて貰ったんだ」

「端折り過ぎだろ…麻衣さん…って…何者なんだ?」
手渡された手帳と名刺を胸元に仕舞いながら導が笑う。

「凄い人だ…俺より俺になれる…」

「なんだ…それ…」

「川島さん!出動命令来たよ…あれ?国元さん…二人は知り合い?」
手帳と手錠を持った麻衣が顔を見せる。

「元の同期。今は俺の方が先輩」

「そうだったんだ…川島さん、車回してくれる?」
鍵を渡す。

「今、行きます…」

「国元さん、二課にも遊びに来て下さいね…下に居るね」
二人は麻衣の姿を見送る。

「川島…持ってるか?」

「何をだ?」
麻衣から渡された鍵を見ながら答えた。

「銃だ…」

「いや…」

「所持の許可を貰って行け…」

「…必要か?一課じゃないんだ…」

「…少し、勝手が違うぞ…心理捜査。ま、お前…射撃の腕はイマイチだったけどな…」

「な…お前と違って、何処ででも試す機会が無かっただけだ!」

「何を?お前は機会がなさ過ぎだったよな?」

「演習は欠かしてない!」

子供の喧嘩の様にニヤニヤしながら言い合う国元の表情が変わる。
「…心理捜査には必需品だ…」