「臨床心理士?」
自分と同じピンバッチを付けた導(しるべ)を怪訝そうな顔で見上げた。

「そうです…こちらで合ってますよね?心理捜査二課…は…」

「まぁ…居るのは私だけだけど」
そう言い放った視線は既に山積みの書類に戻されていた。

「お一人なんですか?」
その割に、二課に与えられている部屋は広い。

「そう…邪魔者だからじゃない?あ…あった…川島…」
山積みの書類の中から導の履歴書と臨床心理士免状のコピーを見つけ出す。

「…しるべ…です…」

「そう読むんだ?正しく導く人となれ…って感じで付けてくれた名前?」

「そうですけど…」

「おおっ!エリート(官僚)コースだったんだ?31才?結構、若く見えるね…犯罪心理を極める為にまた大学に…で当たってる?」

「…そうです…けど…」
次々に履歴書には書いて居ない導の事を当てて行く。

「あ…机はあっち…」
二人しか居ない…という二課の端と端に机を構える。
隔てる様に置かれたのは、これまた二人の部署にしては大きすぎるテレビだ。

「あの…遠すぎませんか?」
既に山積みにされた書類を避けながら、導は荷解きを始める。

「パーソナル・スペース…初めの方に習うでしょ?心理学で。ビジネスには最適な距離だと思うけど?あ…私は課長の麻衣(あさき)です。そこの資料が今、ウチで取り扱ってる物だから目を通しておいて」

既に山積みになった資料に目を通す。

「これ…殺人ばかりですね…未解決も多い」

「行き詰まると回されて来るから…」

「今、捜査してるのは?」

「特には無いけど…」

「これだけの資料があって?」
呆れた顔で導がパソコンを置くだけのスペースをつくる。

「片付けると分からなくなるから…」
悪びれる様子も無く資料に向う麻衣の声を割る様に無線連絡が響く。

(出動要請、出動要請…深水区、東町で身元不明の幼児の変死体発見との通報…S班一課を主に出動!繰り返す…)

「さて…と…」
麻衣に釣られて導も立ち上がる。

「二課も出動ですか?」

「無線連絡聞いたでしょ?一課だけね」

「じゃあ…麻衣さ…いや…課長は?」

「うわぁー…良いね!その呼び方!課長、課長かぁー」
嬉しそうに麻衣がソファーに腰を下ろす。

「…課長は何を?」

「ん?ああ…資料集め」
にっこりと笑うとテレビのスイッチを入れる。

「資料?」

「これだけ猟奇的でサイコっぽい匂いのする事件…マスコミが取り上げない訳ないでしょ?」

「…すみません…自分…人事課に手帳を貰いに行って来ます…」
呆れきった導は溜息をつく。

「あ、うん…行ってらっしゃい」
その様子を見向きもせずに背中から返事をする。