「やぁあああっ!」
今日も、屯所内では数人の平隊士が一人の少女に向かって木刀を振るう。
「ま~だまだ甘いって!ほら、隙が出来てちゃ~最悪の事態に成りかねないよ!」
稽古を付けてもらっている平隊士の元気な返事に、彼女は微笑んだ。
それでも、さっきから狙っていたかのように胴を打ち込む。
「ほぉら、すっきだっらけ~。すぐに胴空けちゃうの、荒木の悪い癖だよ」
「す、すみません……。組長、もう一度お願いします!」
荒木の頼みに、彼女、二番組組長永倉新八は満面の笑みでおうっ!と返事する。
そして二人は駆け出し、荒木が突きの体勢になろうとした時にはもう、永倉の木刀の先が彼の喉元に向けられていた。
「まっ……参りました」
すると永倉はハッと我に戻った顔をすると、何かを思い出したかのように
「あ、ごめん……稽古だってこと意識してなかった」
と一言呟いていた。
「あっ原田組長、こんに…ちはぁ………」
荒木は見てしまった。
原田と呼ばれた男が、槍の柄で永倉の頭をガツンと叩きつけているのを。
「ぃいったい!何すんの!」
永倉は背後にいた男、原田左之助を思いっきり睨む。
が、効果は全然なかった模様。
「お前少しは手加減しろよ馬鹿。お前に勝てる奴がいないってことくらい理解しとけよ馬鹿。そんで少しは稽古意識しとけよ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいなぁ!それにっそんなっ頭っ叩かっないでっ髪っ崩れるっ!」
ニヤニヤしながら原田は永倉の頭を面白そうに槍の柄で、七発連続で叩いてみた。
それを見ていた荒木は、仲睦まじくも見えるそのやり取りを邪魔してはいけないだろうということで他の隊士も連れて帰っていった。
「だーもーこのド変態!芹沢さんにチクってやるー!」
「あっちょっ待った!芹沢さんの拳骨だけは浴びたくねぇんだ!だから許して新八っ!」
「きゃー助けてー!ここに変態がいまぁす!あっははははは!」
楽しそうに駆け出す永倉の後を、原田は必死に追いかけた。
そんな二人を、少女は遠くからじっと見つめていた。
八木家の娘で、日々忙しい毎日を送る隊士には出来ない仕事、例えば洗濯や食器洗いを父に任されていた。
名は都。
そんな彼女の瞳には何時も永倉が映っていた。
自分と年齢が近そうで、だから色々な話をしたりして仲良くなってみたかった。
しかし、この世界はそれを許してくれはしない。
隊士と話すことを、身分が違いすぎるという理由で父に禁じられていた。
彼女は思う。
もっと別の出会い方で彼女に出会えたなら、今頃どれだけ幸せだっただろう。
そんな純粋な想いも届くことなく、都は少しばかり原田に嫉妬していた。
あれから、永倉は無事原田から逃げ切って茶を飲んでいた。
「ふぅ……左之って何も学習しないよねぇ……。芹沢さんにチクるわけないってのに」
「ははっ、原田らしいな。何でも信じ込んじまう子供っぽいところが」
永倉が逃げ込んだ部屋の主である芹沢鴨は笑う。
「しかし、お前に対してもそれは言えるぞ新八」
「え?どういう事?」
「真下の段差に気ずかずに躓いて豪快な転びをしてみせるところだ。普通の大人ならもう少し綺麗に転ぶか体勢を整えるかだからな」
何事かと思い、すっとんきょんな顔で尋ねた永倉は、たった今さっき生み出してしまった自らの黒歴史であろう事象を軽く語る芹沢の発言に顔を真っ赤に染める。
「ぎゃーそれ言わないでぇ!恥ずか死ぬ~!」
慌てて芹沢に背を向けて手で真っ赤に染まった顔を覆い隠す。
そんな永倉の左肩を、芹沢は分厚い書物でポンと叩く。
「ん?」
「これでも読んで大人になれ」
渡されたその本の表紙には、ティターン戦記と書かれていた。
「ギリシア神話の話のひとつでだな。大神ゼウスと魔王クロノスを中心とした、十年にも及んだティターン戦争の話だ。それぞれの人物の抱く想いが細かく綴られた一冊、とでも言おうか。お前が興味を持つような内容だ」
永倉はその本に惹きつけられたかのようにページを捲っていく。
しばらくすると挿絵、そしてしばらくするとまた挿絵。
その挿絵一つひとつに、彼女は惹かれていた。
そして他の挿絵よりも強く惹かれたのは、一人の女戦士アテナがゼウスを背にクロノスの剣を盾「アイギス」で防いでいるシーン。
その時のセリフにもまた、惹かれていた。
「全てを守ることは不可能。それが世の理。それでもそれが可能だということを証明するために、私は此処に立っている……か」
そのセリフを声に出して読んでみる。
「気に入ったか?」
「うん!」
彼女の元気な返事に、芹沢は笑顔を返す。
「だったらそれはお前にやる。大切にしてくれよ」
永倉の頭を撫でると、芹沢は部屋を出る。
丁度彼とすれ違った都が目にしたのは、分厚い書物を必死に読む永倉の姿だった。
今日も、屯所内では数人の平隊士が一人の少女に向かって木刀を振るう。
「ま~だまだ甘いって!ほら、隙が出来てちゃ~最悪の事態に成りかねないよ!」
稽古を付けてもらっている平隊士の元気な返事に、彼女は微笑んだ。
それでも、さっきから狙っていたかのように胴を打ち込む。
「ほぉら、すっきだっらけ~。すぐに胴空けちゃうの、荒木の悪い癖だよ」
「す、すみません……。組長、もう一度お願いします!」
荒木の頼みに、彼女、二番組組長永倉新八は満面の笑みでおうっ!と返事する。
そして二人は駆け出し、荒木が突きの体勢になろうとした時にはもう、永倉の木刀の先が彼の喉元に向けられていた。
「まっ……参りました」
すると永倉はハッと我に戻った顔をすると、何かを思い出したかのように
「あ、ごめん……稽古だってこと意識してなかった」
と一言呟いていた。
「あっ原田組長、こんに…ちはぁ………」
荒木は見てしまった。
原田と呼ばれた男が、槍の柄で永倉の頭をガツンと叩きつけているのを。
「ぃいったい!何すんの!」
永倉は背後にいた男、原田左之助を思いっきり睨む。
が、効果は全然なかった模様。
「お前少しは手加減しろよ馬鹿。お前に勝てる奴がいないってことくらい理解しとけよ馬鹿。そんで少しは稽古意識しとけよ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいなぁ!それにっそんなっ頭っ叩かっないでっ髪っ崩れるっ!」
ニヤニヤしながら原田は永倉の頭を面白そうに槍の柄で、七発連続で叩いてみた。
それを見ていた荒木は、仲睦まじくも見えるそのやり取りを邪魔してはいけないだろうということで他の隊士も連れて帰っていった。
「だーもーこのド変態!芹沢さんにチクってやるー!」
「あっちょっ待った!芹沢さんの拳骨だけは浴びたくねぇんだ!だから許して新八っ!」
「きゃー助けてー!ここに変態がいまぁす!あっははははは!」
楽しそうに駆け出す永倉の後を、原田は必死に追いかけた。
そんな二人を、少女は遠くからじっと見つめていた。
八木家の娘で、日々忙しい毎日を送る隊士には出来ない仕事、例えば洗濯や食器洗いを父に任されていた。
名は都。
そんな彼女の瞳には何時も永倉が映っていた。
自分と年齢が近そうで、だから色々な話をしたりして仲良くなってみたかった。
しかし、この世界はそれを許してくれはしない。
隊士と話すことを、身分が違いすぎるという理由で父に禁じられていた。
彼女は思う。
もっと別の出会い方で彼女に出会えたなら、今頃どれだけ幸せだっただろう。
そんな純粋な想いも届くことなく、都は少しばかり原田に嫉妬していた。
あれから、永倉は無事原田から逃げ切って茶を飲んでいた。
「ふぅ……左之って何も学習しないよねぇ……。芹沢さんにチクるわけないってのに」
「ははっ、原田らしいな。何でも信じ込んじまう子供っぽいところが」
永倉が逃げ込んだ部屋の主である芹沢鴨は笑う。
「しかし、お前に対してもそれは言えるぞ新八」
「え?どういう事?」
「真下の段差に気ずかずに躓いて豪快な転びをしてみせるところだ。普通の大人ならもう少し綺麗に転ぶか体勢を整えるかだからな」
何事かと思い、すっとんきょんな顔で尋ねた永倉は、たった今さっき生み出してしまった自らの黒歴史であろう事象を軽く語る芹沢の発言に顔を真っ赤に染める。
「ぎゃーそれ言わないでぇ!恥ずか死ぬ~!」
慌てて芹沢に背を向けて手で真っ赤に染まった顔を覆い隠す。
そんな永倉の左肩を、芹沢は分厚い書物でポンと叩く。
「ん?」
「これでも読んで大人になれ」
渡されたその本の表紙には、ティターン戦記と書かれていた。
「ギリシア神話の話のひとつでだな。大神ゼウスと魔王クロノスを中心とした、十年にも及んだティターン戦争の話だ。それぞれの人物の抱く想いが細かく綴られた一冊、とでも言おうか。お前が興味を持つような内容だ」
永倉はその本に惹きつけられたかのようにページを捲っていく。
しばらくすると挿絵、そしてしばらくするとまた挿絵。
その挿絵一つひとつに、彼女は惹かれていた。
そして他の挿絵よりも強く惹かれたのは、一人の女戦士アテナがゼウスを背にクロノスの剣を盾「アイギス」で防いでいるシーン。
その時のセリフにもまた、惹かれていた。
「全てを守ることは不可能。それが世の理。それでもそれが可能だということを証明するために、私は此処に立っている……か」
そのセリフを声に出して読んでみる。
「気に入ったか?」
「うん!」
彼女の元気な返事に、芹沢は笑顔を返す。
「だったらそれはお前にやる。大切にしてくれよ」
永倉の頭を撫でると、芹沢は部屋を出る。
丁度彼とすれ違った都が目にしたのは、分厚い書物を必死に読む永倉の姿だった。
