神様の憂鬱

『ギリギリ、ですわよ』

「わかってるよ」

「なにが？」

彼女が訊いてくる。

どうやら、口に出してしまったらしい。

人間の癖が移ってしまいそうだ。

「なんでもないよ」

彼女の正面に立ち、そっと指を伸ばした。

白い頬にまだ残る、雫の一滴を指で拭ってやる。

「泣かないで」

涙の跡も、親指でぐいっと消し去る。

「うん、ごめんなさい」

彼女が消え入りそうな声で呟いた。

「謝らなくてもいいから」

にっこりと極上の笑みを浮かべ、

「さてと」と呟く。

どうやら少し時間がかかりそうだ。

めんどうだけど、人間のやり方にのっとって、彼女の心を開いていくしかないらしい。

それが、天歌の決めたルールならば。