手が届く距離なのに。



そのまま、何事もなく昼休みを終えて午後の授業も普段通りに終了した。

ケイちゃんはHRが終わってすぐに、バイトに遅刻しないようあと7分で駅を出る電車に乗るために走って帰ってしまった。

帰る支度をして鞄を肩に掛けた野々花があたしの席へとやってくる。


「あれ、峰くんも今日はバイト?」

「ああ。 5時からだから、もう帰る」


峰は駅裏にあるアパレルショップと家の近くにあるらしい居酒屋でアルバイトの掛け持ちをしている。

その理由は、いまは実家ではなくお兄さんが借りているアパートで暮らしていると前に言っていた。

『完全に居候するんじゃなくて、せめて家賃くらいは払いたくて』と言っていたことを思い出す。


「……あんまり、無理しすぎないでね」


そう言うと、峰は少し笑って「大丈夫だよ」と言って教室を出て行った。


「峰くんて、しっかりしてるよねえ」

「そうだね。 ……頑張りすぎてないといいんだけど」


教室の扉の方を向いていると何やら視線を感じて野々花の方を見ると、なぜか意味あり気な表情であたしの顔を見ている。


「え、なに?」

「麻虹って、好きな人いないの?」

「ええ?」


急な話にあたしは思いっきり顔を歪めた。 けれど、野々花はそんなことお構いなしに話を続ける。