手が届く距離なのに。

 

「落ちたぁ?! 怪我は?」

「尻もちついただけだから、大丈夫だよ」

「それなら良かったけど……麻虹って抜けてるところあるから心配よ」


その言葉になぜか峰が深く頷く。 あれ、あたしちょっとばかにされてない?

するとその時、ケイちゃんが「腹減ったぁ」と言って帰ってきた。


「あれ、水谷は別だったの?」

「ケイは生徒指導に呼び出されてたんだ」


それを聞いて、野々花は納得したように「ああ……」とさっきのあたしと同じ反応をする。


「反省文書けってさあ。 この用紙3枚分」

「うわあ、大変だね……。あの先生って特にケイちゃんに当たり強くない?」

「たぶん、俺の隠れファンかな」

「んなわけねぇだろ」

「そうよ、バカ言ってんじゃないわよ」


相変わらず当たりが強い峰と野々花の言葉にケイちゃんは買ってきたパンを食べながら笑っている。

この普段と変わらない様子を見て、あたしはどこか安心してしまう。

朝、峰に昨日のことを聞こうとしたけれど、やっぱりそんなことはしなくてもいい気がしてきた。

あたしは、何の変化も要らない。

ただ、この日常が毎日続いてくれるだけで十分。