「あの自販機、金入れてボタン押してもたまに飲み物が出てこない時あるだろ」
「あるけど……じゃあさっきの音って、峰が自販機蹴った音?」
「ああ、たぶん」
たぶんって……どんだけ思いっきり蹴ったらあんな大きい音鳴るんだ。
「すごい可愛い子だったね、1年生かな」
「顔なんて見てねぇ」
「えっ、勿体ない」
そう言うと、峰は呆れたように「なんだそれ」と少し笑った。
「ほら、立てるか」
峰は立ち上がってあたしに手を差し伸べる。
昨日、微かに触れた峰の手の冷たさを思い出し、その手を掴むことを一瞬だけ躊躇してしまう。
けれど、きっと昨日までのあたしだったらこの手を何の迷いもなく掴んでいたのだろう。
あたしは「ありがとう」と言いながら遠慮がちに峰の手を掴むと、軽く腕を引っ張られてひょいっと簡単に立たされた。



