手が届く距離なのに。



昼休みになると、野々花がお弁当を持って「田中、席借りるねー」と言いながらあたしの前の席へ座った。

峰とケイちゃんは、購買か学校近くのコンビニにお昼ご飯を買いに行ったらしく今はいない。

あたしも自分のお弁当を鞄から出すと、ふいに野々花があたしの額に手をピタリと当てた。


「な、なに?」

「熱は、ないみたいね」

「え?」


野々花はあたしのおでこから手を離して、机の上に肘を置いた。


「麻虹、朝も元気ないみたいだったし。 あたしが教室戻ってきた時も顔が赤かったから具合でも悪いのかと思ったの」


その言葉に、思わずぎくっとする。 
あたしの顔が赤かったのは、きっと峰に寝癖直してもらったときかな。


「大丈夫、全然元気だよ」

「ならいいんだけど」


野々花は納得しきってないような表情だったけれど、「はぁお腹すいた」と早速お弁当を広げた。

あたしもお弁当を広げて、水筒も鞄から出そうとしたけれど……あれ、無い。

鞄を開いてみても、やっぱり無い。 朝ぼんやりしていたせいで、うっかり入れ忘れてしまったらしい。


「ごめん。 ちょっとお茶買ってくる」

「いってらっしゃ〜い」


あたしは財布を持って足早に階段を降りて昇降口に向かう。