手が届く距離なのに。



「ここだよ、後ろの」

「後ろ?」


そう言いながら峰の方を見ると、目の前に大きな手があって、その手はそのままあたしの頭の後ろの方へと向かった。

控えめな指先が髪を解かして、あたしは硬直したまま視線の合わない峰を見た。

とっさに思い出してしまうのは、やっぱり昨日の峰の表情。


「直った」

「……ど、どうも」


いや、なんでちょっと他人行儀な感じになってるんだ。

峰の手はあたしから離れて、あたしも自分の手を下ろす。

無意識に息するの忘れてたせいか、ドッと身体が熱くなるのを感じる。

なんだか、自分がものすごく変。

峰に対してこんな風になるのは、昨日までのあたしじゃ考えられない。

昨日、峰があんな顔であんなこと言うから……。