手が届く距離なのに。



あたしは窓から視線を逸らして、スマートフォンのミュージックアプリを開く。
昨日、帰ってからすぐアルバムの音源をスマートフォンに落としたけれど、まともに聴くことができなかった。

聴きながら登校しようと思っていたのに、それすらすっかり忘れていた。

でも、それどころじゃなかったんだから仕方がない。

……あたしは、峰にああ言われた時なんて答えようとしたんだろう。

ただ状況が飲み込めなくて、それでも何か言葉を発さなきゃと思ったけれど言葉なんて何も思いつかなかった。

そもそも、急にあんなことを言われても平気で居られるほどあたしは恋愛経験がない。 好きな人だって、ちゃんと出来たこともない。

それに、峰のことを今までそんな風に思ったこともないのに……。

思わずため息がこぼれ落ちる。 そのとき、峰にいつも飲んでいるカフェラテをアルバムのお礼に買う約束をしたことを思い出した。

あと、峰が今欲しそうな物を野々花とケイちゃんに聞いてみなくちゃ。

いつもだったら、こういうプレゼントを考えたりすることは楽しくて仕方がないのに今はなぜか変に緊張してしまう。


「とりあえず、カフェラテ……」


あたしは財布を鞄から取り出して席を立った。