翌朝なっても、あたしは昨日の帰り道のことが頭から離れずにいた。


「一体なんなの……」


あんな峰の顔を見たこともないしあんな声のトーンも聞いたことがない。


––『じゃあもし、俺が麻虹のこと好きって言ったらどうなんの』


……一語一句間違えずに頭の中で復唱出来てしまうことが恥ずかしい。

だけど、こんなことを言われてすっかり忘れられるほど、あたしも単純じゃなかった。

峰は『忘れろ』と言ったけれど、それをしようとすればする程グルグルと頭の中を巡って仕方がなかった。

それに、あのとき峰の耳が赤くなっていたのは見間違いじゃない筈なのに、峰は何も言ってこなかった。

あたしは勝手に峰の嘘は見破れるのだと自負していたし、いつもだったら峰も何か言い返してくる筈なのに。

それなのに、どうしてあの時は……。

今日どんな顔して峰と会えばいいんだろう……普通にできるかな……。

のんびり歩いて学校に着くと、風紀委員のタスキを斜めに掛けた野々花がこちらに手を振っていた。

その姿を見て、あたしも手を振り返す。


「おはよう」

「おはよう〜、麻虹は検査顔パスね」

「やったね」


野々花の顔を見て、あたしは少しほっとする。 
それが伝わったのか、野々花に「どうかした?」と小首を傾げながら聞かれて思わずドキッとした。