「初伊、お姉さんとお兄さんは?やっぱりまだ帰って来ないよね?」


「お姉ちゃんはクイーンの仕事だし、あいつはご存知の通り家出中だよ。」





この家では一歳年上の兄と二歳年上の姉と一緒に生活してた。



でも、兄は彼が高校1年生だった夏に家出して……姉はクイーンと呼ばれるこの町の、ある意味最高権力者として仕事をしているため帰りは夜遅いのだ。





「俺考えたんだんだけど、いつも初伊は家で一人寂しいよね。だからさ……来なよ、初伊。」


「え?」





そうして恵は私の腕を強く掴んで立たせたかと思うと、ひょいっと私を抱えて歩きだした。




私、重いと思うんだけど、恵は私を抱えたまま、軽快に階段を降りて玄関の扉を開けた。


器用に靴も履かされて。






「だっ……駄目だって。中央が東西南北に関与したら……ねえ、恵!!私制服だし!っていうか、おろして!ここもう外なんだよ!公共の迷惑!」






バンバン、と背中を叩き続けると、突然足を止めた恵。




「そんなに騒ぐと、うちのおじさんの病院からこっそりくすねてきた眠くなっちゃう薬、打つよ。」



「黙ります。」




ふふふ、と妖しい笑みを浮かべて恵は言った。


お巡りさん、どうかコイツを捕まえて下さい。





「聖カナンの制服じゃまずいなら、これあげるからコンビニで着替えておいで。」






恵から抱っこ解除され、おろされると持っていた紙袋を渡される。




珍しく何を持ってるんだろう、と思ってたんだけど……





「西凛の制服。あげる。」


「な………これ、制服なの?!」




手渡された袋の中を見てみると、確かに恵の通う西凛高校の女子の灰色のセーラー服。






「初伊のために買ったんだ。これでいつでも西凛に来れるでしょ。」



そうすれば俺も初伊も寂しくないよね、と恵は満面の笑みだ。





「俺は初伊がいれば何もいらないし、初伊以外は滅びればいいと思ってるから。……あ、初伊、西凛では俺以外の奴と喋っちゃだめだよ?危ないからね?」



「ヤンデレは、出来れば机上のキャラでいて欲しかった……。」







顔も良い、優しい、運動も出来るし喧嘩も強い。
そんな恵の唯一とも言える欠点。




そう、彼はヤンデレでした。