「あやしいとは思ったんだよね…」

アズロは空を見上げながら、おかしそうに笑う。



「……アズロ……」



アズロは、ついさっきまで自分の国にいたと言う。
友人の家に行く途中で、彼は空に奇妙な亀裂を発見した。
いや、奇妙な亀裂というのは違う…空に亀裂があるということ自体が不自然なんだ。
それは今までに彼が見たことのないもので、興味をひかれたアズロはその亀裂の傍に向かった。
危険は感じなかったという。
彼は、中をのぞいてみようと思ったらしいのだけど、その亀裂の傍に近付いた途端、何か見えない強い力にひっぱられたのだそうだ。
それはどれほど抗おうと、そんなことはものともせずに、アズロを亀裂の中へ引きこんだ。




「ただ、そう感じた時はもう遅かった。
のぞくも何も、僕は吸いこまれてここに来てしまって…
………だから、ここがどこだかわからないってことなんだ。」

「き、君っ!それって、大変なことだよ!
普通じゃないよ!
空の亀裂に吸い込まれたなんて…」

「……なんとなくだけど、ここは僕のいた世界じゃないような気がするんだ。でも、良かったよ…空気もあるし、言葉だって通じてる…
ねぇ…考えてみたらすごいことだと思わない?
違う世界なのに言葉が通じるなんて……あれっ!?……じゃ、もしかしたら、ここは違う世界じゃないのかな?」

「さ…さぁ?」



本当に不思議な人だ。
もしかしたら異世界に迷いこんだかもしれないのに、どうしてこんなに落ちついていられるんだ?



……それとも、彼が今話したことは、皆、嘘……?



「シンファ…この世界のこと、教えてくれない?」

「お、教えるって、何を…?」

「う~ん…そうだね。
国の名前とか通貨とか…なんでも良いよ。
あ……そういえば、セレスって知ってる?」

僕は即座に首を振った。
それが、人の名前なのか国の名前なのか、それとも別の何かなのかさえ、僕にはわからない。
きっと、アズロとは関わりの強いものなんだろうけど…



「じゃ、ヴァルドとかアーリアとか…聞いたことない?」

「一度もないよ。
それは何なの?」

「やっぱり、知らないか~…
じゃ、とりあえず、この国のこと…世界のこと、なんでもいいから教えてよ!」

無邪気な微笑を浮かべるアズロに、僕は小さく頷いた。