「モニカ…君は町で生まれて町で育ったんだろう?
なのに、どうして、こんな所にやって来たんだい?
こんな何もない所に……」

「そうね…ここには何もないように見えるかもしれないわね。
でも、何もないってことはたくさんあるってことなの。
町にはもうなくなってしまったいろんなものが、ここにはたくさんあるってことなのよ。
とっても素敵だわ!」



彼女は、時々、こんな風によくわからないことを言う。
最初は僕も戸惑ったけど、今は慣れたし彼女の言うことが少しずつわかって来たような気もしてる。
そう…この村には、本当になにもない…
商店もなければ面白いものの一つもない。
だけど、日々小さな感動があちこちで生まれてる。
小さな芽ひとつにも心が動くようになったのはここに来てからのことだ。




「両親は町の暮らしに慣れたから、ここには戻るつもりはないって言ってた。
……他の人達もそうかもしれないわね。」

それは仕方のないことだ。
以前はそれほど不便と思わなかったことも、便利なものに慣れてしまうと酷く不便に感じてしまう。
……そして、その原因を作ったのは僕の母さんで…



「……モニカ。
僕の母さんのことを怒ってる?」

「え!?」

「だから……母さんが村の掟を破ったから、この村はこんな風になったんだし……」

「私はその頃まだ生まれてないんだもの。
恨みなんてないわ。
それに……おばさんの気持ちもわかる。
仕方なかったのよ。
それにね……村がこんなことにならなかったら、私はこれほど充実した日々を体験出来ることはなかったと思うのよ。」



モニカの言葉に安堵した。
皆が皆、彼女みたいに良い解釈はしてくれないってことはわかってるけど……



「これからはここの住人も増やしていかなきゃならないわね。」

「そうだね…そのためにはもっと…」

「シンファ…結婚しましょう!」



「……え?」



「だから、結婚しましょうって言ったのよ。
私、子供をたくさん産んで、この村を昔みたいにもっと賑やかにしたいの。」

「モ、モ……」

僕は顔が熱くなるのを感じた。
きっと、今、僕の顔は熟したトマトみたいに真っ赤になってる筈だ。



「……シンファ、私のことが嫌いなの?」

「き、き、嫌いじゃないけど……」

「そう、じゃあ決まりね!
……あ、おばさーーん!」



モニカは母さんをみつけて手を振り、何もなかったかのように駆け出した。
なんだ、冗談だったのかとほっと胸を撫で下ろしたのも束の間……



モニカは母さんに僕と結婚するって報告したんだ。