(良い気分だ…)



母さんはまだ眠っている。
まだ夜明けだというのに、山のひんやりとした空気のせいなのか、僕はえらく早くに目が覚めてしまった。


丘の上に腰を降ろし、少しずつ顔をのぞかせ始めた太陽を眺めていた。
太陽の動きと共に、空が色が変えていく…



「あ、あれ…!?」



なにかおかしなものが見えた気がして、僕は立ちあがった。



(……なんだ、鳥か……)



鷹のような大きな鳥に僕は手を振った。



「シンファ…早起きなんて珍しいわね。」

「あ、母さん……なんだかわからないけど、今日は早くに目が覚めたんだ。」

「家では、私が起こさないと起きられないのにおかしなものね。」

「野宿には慣れた筈だったんだけどなぁ…」

「村に着くまでにはもっと慣れるわよ。
あ……シンファ、背中が草だらけじゃない。」

母さんは僕の背中をぱんぱんと叩いてくれた。
僕はもう立派な大人だっていうのに、母さんはまだこんな風に僕のことを子供扱いする。
やれやれと思いながらも、そういやな気もしない。
いくつになっても、僕は母さんの息子で、母さんは僕の母親だってことか……



「なぁに、シンファ…
思い出し笑い?」

「そうじゃないよ。
ただ、あんまり綺麗な夜明けだから…ちょっと嬉しくなっただけ。」

本当のことは言い辛いから、僕はそんなことを言って誤魔化した。



「……そうね。
本当に綺麗な夜明け……
早起きした甲斐があったわね。」

僕達は並んで空を見上げた。
さっきの鳥はもうどこかに飛んで行ってしまって、どこにも見えない。



「母さんの故郷へはまだずいぶんかかるんだよね?」

「まぁね…でも、もう半分以上は進んだわ。
あと三分の一くらいかしら?」

「……空が飛べたら、もっとずっと早くに着けるだろうにね。」

「あいにく、私にもあなたにも翼がないんですもの。
歩くしかないわね。
さ、とにかく、何か食べましょう!
今日も精一杯歩けるようにね。」

母さんは僕の背中を優しく叩き、にっこりと微笑んだ。